ヴィンランド・サガ16巻読みました(ネタバレあるかも)

 幸村誠による漫画、ヴィンランド・サガ16巻読みました。
過去のトルフィンに大きな影響を受けたヒルドの登場で、やっとトルフィンの物語が動き出したという感じでとても楽しみにしています。
 ヴィンランド・サガ最大の魅力ってヴァイキング達を筆頭に訳の分からない価値観なりに信念を持って生きていた人間の描写と、それに巻き込まれる罪の無い人達の無念だと思います。
 そういう意味でブリテン編の「のっぽのトルケル」や「狂戦士のビョルン」と並んでも一番キャラが立ってた、「少年兵トルフィン」は素晴らしかったと思います。
 それが奴隷編になってからトルフィンは、「奴隷エイナル」や「王クヌート」のエピソードの脇役であると同時に、現代の価値観を体現する存在になっていて、なんか日和っててつまんないし、また巻き込まれる側の無念を描くにはトルフィンは運が良くまた身体能力に恵まれすぎているように思いました。
…弱い人間が巻き込まれるのと、強い人間が巻き込まれることを許容するのは絶対的な違いがあり、トルフィンは前者ではなかったように思います。
 そんな奴隷編で魅力的だったのは、やっぱり「客人蛇」や「ケティルの長男トールギル」って感じたのですが…あれ?ぼくがちょっと偏ってるのかな??
 さらに繋がれたアジサシ編では、元々の現代っぽい言葉遣い(これ自体は幸村誠節だと思うのだれけれど)もあって現代の価値観を前に出した印象になっていてモヤモヤしてました。
 加えて描かれる理不尽さも、ヴァイキングに略奪を受けて村ごと全滅させられる人々を、面白おかし…淡々と描いていた頃と比べると薄まっているように感じました。
 そんなタイミングでのヒルドの登場は元々の世界感に引き戻されると同時にギャグパートの完全な終わりという感じで、次巻以降がとても楽しみです。
 ちょっと深読みすると、他人事だったから後ろめたさもなく、失う物のない命知らずだったから信念に従えて、肉体的優位と運の良さで生き残れたトルフィンの物語が、ここにきて自責の念でがんじがらめになり、失えないものをかかえ、肉体的優位が不信となる…そんな運に見放され状況に追い込まれており、やっとブリテン編ラストとよく似た状況になったなとワクワクしています。