刃牙道を読んで思ったこと(ネタバレあり)…あとぼくの思う板垣作品のベストバトルとか

 板垣恵介による漫画刃牙道を読み、改めて強さを描く漫画の難しさを感じました。
色々シリーズ展開などもしているので、作品詳細は下記にリンクつけているAmazon等やWikipediaをご確認いただくとして、ネタバレありの読んでる人向けで書きたいと思います。

 まず好きなキャラクターは、今作品のゲスト現代に復活した剣豪宮本武蔵でした。
序盤などは特に、現代事情に疎いちょっと滑稽な部分と、剣豪としての強者の魅力とのギャップがとても面白かったです。
 一番好きだったシーンは刃牙と武蔵の初戦で武蔵の強さが充分に楽しめました。
ぼくが板垣恵介の格闘技作品の好きなところは、あるキャラクターの強そうな予感の煽り方と、その予感を超える最初の爆発的な強さ描写なんだよなあ。
…なので、作中のトーナメント戦なども初戦が好きです。

 一方で嫌いだったキャラクターは武蔵を現代に蘇らせたのに、上手く扱えず何よりも言い訳が以前に比べてキレがなくなったご老公になるのかなあ。
そして嫌いだったシーンというか展開は、刀という武器の戦いを描いたことだと思います。
 ピクル篇辺りで板垣さんはテレビで、人間に連れ出されたのに人間の都合で殺されるキングコングに同情を覚えそういう物語は描けないと語られていて(キングコングに襲われる人よりもキングコングの方を同情するって本当に強者大好きなんだろうなあ)、そんな板垣さんには武蔵を殺すような展開が無いのは読めてしまってました。
だったらもう平和な世界とか、リアルなスポーツとしての格闘技や、相手を赦したり受け入れる人間的な強さを描く展開にすれば良かったのですが、板垣作品の強さとは餓狼伝の松尾象山が語る「ワガママを貫く強さ」という身勝手で孤高で凶暴なもの(その象徴が範馬勇次郎かなと)であり、そっちには行けないのも読めてしまってます。
 もちろん強者であるレギュラーキャラクター達に対する思い入れも強くなりこちらも無碍にできません。
というタダでさえ難しい状況で、漫画というフィクションでも死んでなかったとごまかかすのが難しい刀を使っての戦いへの展開は読んでて息苦しくなってきました。
また、凶暴な人斬りとして描かないといけなくなった武蔵の強さアピールのたびにゲスト(モブ)キャラが斬り殺される展開は、単純に人を殺すという嫌悪感以上に、殺すわけにはいかないキャラクターと殺しやすいキャラクターという作者による差別?が嫌な形で見えてしまったように思います。
 …やられ役は強者の描写で重要キャストだしそういった描写は物語以上に面白みある部分だし、過去の板垣作品でも気の毒なやられ役は一杯いたのですが、今回はそれらと比較して異常に読むのがしんどく、それには刀という武器の影響が大きかったように思います。

 そして何よりも宮本武蔵を蘇らせるという瞬間に、こうなることは分かっていたという出オチ感があり(作者もファンも確信犯だと思う)刃牙道は苦手です。
まあ見方によっては、刃牙の世界感をもってしても、宮本武蔵という剣豪の「ワガママを貫く強さ」を受け入れられなかったという武蔵へのリスペクトとも取れ、そう思うと色々救われるかなあ。
…だったら、武蔵は範馬勇次郎に明確に勝つか、少なくとも完全な同レベルとして描かないとだめだったんだけど…それこそ板垣作品では絶対無理な展開だよなあ。

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グラップラー刃牙 – Wikipedia

 ちなみにこういう作品展開をみて、ぼくが選ぶ板垣作品のベストバトルは、餓狼伝のグレート巽vsサクラ戦(5巻~8巻)。
「ワガママを貫く強さ」と凄惨で臨場感ある暴力描写と、その落とし前みたいなものを物凄く生々しく描いています。
…上記の様な性格の板垣さんがどんな気持でサクラ編の最後を描いていたのかと思うと、本当に泣けます。

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