映画「おおかみこどもの雨と雪」が面白かったです(ネタバレあり)

細田 守
角川書店(角川グループパブリッシング)

¥ 540

(2012-06-22)

 細田守監督による長編オリジナルアニメ映画「おおかみこどもの雨と雪」が面白かったです。
 おおかみおとこと恋をしてその子供を授かった母親花の物語で、母親の視点と感情を中心に描いているのが独特だなあと思いました。
おおかみこどもという言い回しもおおかみおとこの子供であるという意味だけではなく、獣のように自由気まま生きる子供という存在につけた、ほほえましいニックネームのように感じました。
…と言うわけで男でまだ子供の居ないぼくとしては感情移入がしづらい作品ではあったのですが、花と彼(おおかみおとこ、名前は出てこないです)が知り合い暮らすシーンなどはぐっときました。
 身勝手な物言いですが、大変さが強調される子育てを母親が幸せそうにこなしていく描写は男として希望が持てたなと思いました。
あんな風に前向きなお母さんと子供育てたいです。
つか、花の絵やセリフも、すごく宮崎あおいぽくて好きでした。
…で、以下ネタバレありで書きます。


 序盤でお父さんであるおおかみおとこが死んでしまい、以降はシングルマザーの奮闘記となります。この辺りは男として申し訳なさと無力感に苛まれるところです。
 そのシーンでは、死体が狼である彼は人間社会では動物の死骸として処理されてしまい、花は最愛のひとが亡くなった悲しさを誰とも共有出来ません。
コミュニティにおける少数派であったり、明かせない秘密をもった人間の辛さを痛烈に描いていました。
 その後、花が都会での暮らしを諦めるまでの描写は、事情を知らない人間の残酷さであったり、複雑な環境にいる子供や親に対する社会のあり方を皮肉を効かせて描いていました。
 まあ、それでも花は一生懸命でおおらかにお母さんを続け、前向きに田舎に引っ越す決断をするのには勇気づけられました。
 一点マイナスに感じたのは、おおかみこどもという獣になったり人間になったりする存在を描くには絵が弱いかなあという点です。
…宮崎駿監督あたりが、文句言いそうな絵だなあと思いました(笑
 後半は、二人の子供、雪と雨の成長を描いていくのですが、子供達に起こる出来事は綿密ではありつつも、どこか母親からみた子供という一歩引いた目線だったと感じました。
 クライマックスも母親の子離れ(雪が中学生で雨が10歳くらいという非常に早いタイミングですが)というもので、主題歌のタイトルが「おかあさんの唄」というのも含めて一貫していたなと思いました。
 批判に上がっている、おおかみおとこと(避妊せずに)セックスする花ってどうよって意見に対しては、子供を育てることの苦労を考えてしまい親になる決断に一歩を踏み出せない人に対するメッセージであると感じました。いやはや胸が痛いです。
 また、今の社会って子供に恵まれることや子供を育てて行く事を、本当に素晴らしい事として扱っている?という強い問いがあるように感じました。
 とても深い作品だったと思います。