アニメ「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」は、「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」 アニメ版か小説版(ベルトーチカ・チルドレン)どちらの続編なのか?

 アニメ「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」が6月11日から全国ロードショー中です。

『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』公式サイト

どちらの続編なのか?

逆襲のシャアの続編

 「閃光のハサウェイ」は、「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」以降、U.C.0105年の25歳になったハサウェイ・ノアを描いた作品で、原作小説は富野由悠季によって1989年から1990年に角川スニーカー文庫より刊行されています。

機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ(上) 機動戦士ガンダム閃光のハサウェイ (角川スニーカー文庫)

…余談ですが、21年6月15日時点で、閃光のハサウェイ小説版 上中下3つがAmazonのライトノベル の 売れ筋ランキングの1位~3位に入っていて、とてもうれしいです。

UC世紀の年表については下記がわかりやすかったです。
ガンダムの年表 | ビックカメラ

逆襲のシャアは、原作小説とアニメ版で内容が異なる

 閃光のハサウェイの前日譚となる逆襲のシャアは、アニメ版と原作小説「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン」で結構内容が異なります。

 様々な違いがある中で今回注目したいのが、逆襲のシャアでハサウェイが手に掛けたのは誰か?という点です。
小説版だとクェス、アニメ版だとチェーンとなります。

詳細な違いは下記が詳しいです。

劇場版 逆襲のシャアとベルトーチカ・チルドレンの違い【ガンダム】

アニメ閃光のハサウェイはどちらの続編として描かれるか?

 そして、今回から三部作で描かれる、アニメ閃光のハサウェイは、逆襲のシャアのアニメ版か、小説ベルトーチカ・チルドレンのどちらの続編として描かれるか?がとても気になっています。

 原作小説「閃光のハサウェイ」は当然ながら小説ベルトーチカ・チルドレンの続編ですが、同じく逆襲のシャア以降の話を描いた、動戦士ガンダムUCでは、アニメ版「逆襲のシャア」の続編として描かれています。
…ちなみにUCでは、小説ベルトーチカ・チルドレンでアムロの子供を身籠もり母子で大活躍したベルトーチカ・イルマは、アムロの子供を身籠もることもなく「逆襲のシャア」以前に別れたという設定で登場しています。

ベルトーチカ・イルマ

 気になると言いつつ下記の記事などを読む限り、アニメ版「逆襲のシャア」の続編として描かれるようです。

「閃光のハサウェイ」の前日譚、富野由悠季によるもうひとつの「逆襲のシャア」。オリジナルCVによる32年前の音源を復刻! ジャケットは美樹本晴彦による描き下ろし。

アニメ版「逆襲のシャア」の続編ながらそのままという可能性もありそう

 アニメ版「閃光のハサウェイ」が、アニメ版「逆襲のシャア」の続編だとしても、ハサウェイが多くの秘密を抱え精神的にも不安定な人物で、またUCスピンアウト作品でのフォロー設定など見ると、原作小説版ままで進めそうな気もします。

 小説版「閃光のハサウェイ」では、ハサウェイの回想や、彼と地球連邦軍士官ケネス・スレッグとのハサウェイの戦歴についての会話シーンなどで「逆襲のシャア」で起こったことに触れられますが、例えばハサウェイの戦歴も小説版とアニメ版で下記の様な違いがあります。

ハサウェイの戦歴の違い
逆襲のシャア小説版のハサウェイは、父親ブライト・ノアが艦長を務めるラー・カイラムに乗り、モビルスーツに無断で(盗んで)搭乗し、クェス・パラヤが乗る敵機(α・アジール)を撃墜しますが、アニメ版ではモビルスーツ搭乗後、ギラ・ドーガを一機撃墜後、友軍機であるチェーン・アギ(アニメ版逆襲のシャアでのアムロの恋人)が乗るリ・ガズィを撃って戦死させています。

 アニメ版では友軍機を攻撃し戦死させたハサウェイがなぜ厳罰になっていないのか?という点が非常に気になるのですが、漫画『機動戦士ガンダムUC 虹にのれなかった男』で、下記の様なフォロー設定が描かれており、これだったらぎりぎりアリかなあと感じます。

漫画『機動戦士ガンダムUC 虹にのれなかった男』において
戦闘終結後、ロンド・ベル隊によって収容されたがクェスの死とチェーンを殺害したショックにより、ハサウェイはジェガンのコクピット内で立ち直れない状態となり、1ヶ月経った後も何があったかを吐露出来ずにいたとブライトは回想している。当該漫画内では、収容したハサウェイの搭乗したジェガンは電装系が故障していた為フライト・レコーダーが機能していなかった事とラー・カイラムクルーの温情で戦闘記録は残っていなかった。よって父親であるブライトや後述の連邦軍上層部の面々はハサウェイが戦場で無断搭乗したジェガンで何を行ったかは把握出来ずにいたのである。ブライトがシャアの反乱後に連邦軍上層部の査問会にかけられた際、MSの無断搭乗による軍規違反を犯したハサウェイと核を無断で持ち出したカムラン・ブルームは共に嫌疑をかけられる事となる。しかし、アクシズ・ショック真実の隠蔽工作にブライトが同意したことにより両名の訴追は免れている。
ハサウェイ・ノア – Wikipediaより

機動戦士ガンダムUC 虹にのれなかった男 (角川コミックス・エース)

小説ままの脚本でも奥深いものになりそう

 アニメ版の続編でも、ハサウェイがケネスに自身の戦歴について語るシーンで、チェーンを戦死させたそぶりを感じさせない自然な受け答えをしているのが隠蔽の演技と考えれば、ハサウェイのテロリストとして怖さや有能さが表現されているように感じます。
…ハサウェイがとても用心深く人を欺くことに慣れた行動をする描写は多数あるので、こちらもアリと感じます。
 もしくは、クェスの死後にハサウェイが錯乱し前後の記憶を失っているのもアリなくらいに作中のハサウェイは精神が不安定なキャラクターとして描かれています。

 上記の様に考えれば、小説版のままの脚本でも辻褄はあうし、異常な精神状態を持った危険で有能なテロリストハサウェイを描いた作品として奥深いものになると感じます。
 そして、ニュータイプのように嘘を見抜くギギのインパクトはより大きなものになります。

小説ままの脚本で印象が変わってしまうのが嫌な点

 とはいえ、閃光のハサウェイを、アニメ版逆襲のシャアの続編であり、テロリストの物語として考えてしまうと、小説版では驚愕と言われた結末が、ごく妥当なものに見えてしまうのが残念です。
 SNSなどで小説版閃光のハサウェイ結末のネタバレとその反応を時折見かけますが、多くがアニメ版「逆襲のシャア」のチェーンを撃った印象から、「むしろ逆襲のシャア時点で厳罰でないのがおかしい」という意見が目立ちます。
 しかし、本来は小説版ベルトーチカ・チルドレンの続編であり、チェーンは存在すらしておらず、ハサウェイは初恋?の少女クェスを撃ったトラウマと世界に対する疑念を背負っており、共感や同情ができる存在で、だからこそ結末の意外性とインパクトが際立ちます。

 余談ですが、小説版ハサウェイの怒りは世界と大人に対する不信とそれ以上にかつての自身の無力さに向けらたもので、アニメ版のようにチェーンを撃つという行動をしていれば、テロリストハサウェイは色々な意味で産まれなかったと思います。
 そう考えると、アニメ版「逆襲のシャア」での、ハサウェイがチェーンを撃つシーンは「閃光のハサウェイ」を凝縮したようなもので、素晴らしい演出だったと思います。

【鬱展開】ハサウェイ・ノアの人生【ゆっくり解説】

 そしてハサウェイ以上に、父親であるブライトに対する共感や同情にも大きな違いが生じます。
 虹にのれなかった男の設定を継承すれば、ブライトはハサウェイの軍規違反もみ消しに積極的に関与していることになり、やはり彼に対する同情は薄れるように感じ、それはとても残念なことと感じます。

 …UCでは達観したやり手みたいに格好良く描かれたブライトですが、小説版の閃光のハサウェイでは、優秀でまじめながら、息子を疑うこともない三枚目な善良さに共感出来る「家族を愛するお父さん」という印象です。
 ハサウェイのやってきたことやその結末はブライトに対する最悪の裏切りであり、小説版であえて描かれなかった全てを知った時のブライトの気持や、その後のノア一家の行く末は想像するだけで泣けます。

オリジナルの展開結末になるのか

 アニメ化に際してオリジナルの結末になるという可能性もあるのですが、下記のインタビュー記事などを観ていると、結末は小説通りにいくのだろうと感じています。

“アニメ化は無理”とされた『閃光のハサウェイ』 富野監督が求めた「脱ガンダム」と「脱富野」(ウォーカープラス) – Yahoo!ニュース

 その方が良いと感じる一方で、小説版 閃光のハサウェイは、子供時代に先に読んで結末に驚いた多くの友達から、子供らしい浅くて手加減無しのネタバレをされていたので、ごっそり変えて欲しいような気もします(笑
 …結末は変わらなくとも、上記のようなアニメ版「逆襲のシャア」から来る、ハサウェイに対する冷ややかで厳しい感覚を覆してノア一家に共感し同情できるような演出があると、うれしいです。

 改めて強調しますが、ベルトーチカ・チルドレンから小説版閃光のハサウェイの、ハサウェイは同情できるキャラクターだし、ブライトさんはその100倍くらい同情出来る父親です。

Card