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J・C・チャンダーの監督映画「マージン・コール」の組織体制の描き方が格好良かったです。
この映画は、2007年に発生した世界金融危機時の大手投資銀行(リーマン・ブラザーズがモデルらしい)の危機予測からその対策までの24時間を描いた作品です。
世界金融危機がその後に引き起こした出来事を思うと、彼らは批判されるべき存在であり、作中演出でも権力によるアンフェアさや、人間的な汚さが強調されていたように思いますが、実際に観た印象は「危機対策プロセスが格好良い」というものでした。
…なんかこの感覚って、映画「ウォール街」のゲッコーを見た時にとても似ています。
なんといっても格好良いのが意志決定の早さと、決定に基づいた徹底した行動力の描写で…
21時に有能ではあるけれど一社員であるザカリー・クイント演じるピーターが危機的状況を予測する結果を得て、
22時には彼の上司ポール・ベタニー演じるウィルを酒場から呼び出し、さらにその上司であるケヴィン・スペイシー演じるサムを呼び出します。
深夜2時にはサムはさらに上役に報告をして、サイモン・ベイカー演じるジャレッドたちによる役員会議が行われ直後には会社トップのジェレミー・アイアンズ演じるジョン・チュルドがヘリコプターに乗って颯爽と(?)現れ、トップダウンによる対策会議が行われます。
4時にはチュルドによって対策の方向性が決定され、5時までの計画書作成、さらに最も反対する現場実行チームのリーダーであるサムの説得も行います。
…まあその方針自体がアンフェアで非情なのはどうかと思いますが、組織としてのあり方は非情に美しいと思いました。
個人的に見習いたいと思ったのは、問題発生時には自分が有効にコミュニケーションを取れてその件に責任を取れる人に対して、きっちり引き継いだという点です。
ピーターが上司のウィルを呼び出す際には、同僚のペン・バッジリー演じるセスが伝言を渋るのをなだめているし、ウィルがサムを呼び出す際も同じでした。
反対に言うと部下からの呼び出しに対して、最初は渋ってもなんだかんだ言って、迅速に動いた点も素晴らしかったです。
チュルドなんてヘリコプター使って現れているし(笑
ぼく自身が参考にする機会があるかは分かりませんが、大きな権限をもった人間が自分の価値を信じ責任を持って権限を行使するという描写は、権力がどういうものなのか鋭く描いているように感じました。
当初は自主映画として制作されるも、上記の通り素晴らしいキャストが出演しており、第61回ベルリン国際映画祭のコンペティション部門で上映され、金熊賞を争った名作と言える作品なのですが、何故か日本では劇場公開されていないそうです。