金曜ロードショーで「すずめの戸締まり」見て、「ダイジン可哀想」について思ったことなど

 2022年(令和4年)に公開された、脚本・監督 新海誠のアニメ映画「すずめの戸締まり」が、金曜ロードショーで放映されたので、遅ればせながら観ました。
 個人的には非常に面白く、一緒に観た子どもも大喜びしてくれたので大満足でした。

『すずめの戸締まり』予告

金曜ロードシネマクラブ

既に素晴らしい考察が沢山ある

 「すずめの戸締まり」は非常に注目された作品で、劇場上映から時間も経っており非常に優れた考察は沢山あります。
中でもぼくが、好きなのは下記になります。

宇多丸 映画評『すずめの戸締まり』2022.11.25

【総集編】解説考察『すずめの戸締まり』を100倍楽しむ為に 劇場で20回観た私が全ての謎を解説!! ダイジンの正体、芹澤の裏設定、閉じ師の意味、草太の目的、鈴芽と要石、ルミさんの謎 最後の戸締まり

ダイジンについて触れたいかな

 今更だし、ぼくが観てからの時間も短いので、数ある感想の内の「ダイジン可哀想」について思ったことに絞って書きたいです。
ダイジンについての意見で、分かりやすいと感じたのが下記。

すずめの戸締りの猫がかわいそうな理由【ダイジンの決意が切ない】 – Miscellaneous Blog

 …まず、先に明確にすると、ぼくは「ダイジン可哀想」と思わない派です。
理由は後ほど書きますが、そういう視点からどう見えるかを書いたとご留意くださいませ。

ダイジンはどう可哀想なのか

 解釈は色々あるっぽいですが、おおざっぱに「ダイジン」目線を、まとめると、主人公鈴芽の無知ゆえに地震を封じていた要石「ダイジン」を解放してしまい、日本で次々と地震が発生します。
さらに鈴芽は子ども程度の知性を持つ猫の姿をした人語を使う「ダイジン」へ無責任な好意を語り、誤解した「ダイジン」は要石の役割を、もう一人の主人公草太に押しつけます。
 鈴芽は物語クライマックスで、再び「ダイジン」を要石に戻し、地震を封じ草太とのハッピーエンドを向かえます。

 誤って解放した要石を本来の形に戻したとも言えるのですが、ダイジンはとても可愛い容姿をしており性格も無邪気で、何よりも小学3年生の山根あんさんのお芝居が素晴らしく、可愛いく守りたくなる存在です。
そして、鈴芽の語った好意を心から信じており、拒絶されたことに心底傷つくというシーンは、子どもが信じていた親に裏切られたような切なさを覚えます。

映画『すずめの戸締まり』WEB CM-きまぐれダイジン編-【大ヒット上映中】

鈴芽が酷いと言えれば楽なのだけれど

 上記のようなまとめ方ではダイジンが可哀想というよりも、鈴芽が酷いって印象ですが、不思議と鈴芽をはじめ全ての登場人物が皆、憎めない境遇や性格をしたキャラクターです。
 それがまた、やり場のない思いになって「ダイジン可哀想」という感情に至ったのだろうと思います。

映画『すずめの戸締まり』30秒CM-今年の戸締まり編-【大ヒット上映中】

可哀想とならない理由はそれが怪異譚のお作法だから

 上述の通りぼくは可哀想とならないのですが、その一番の理由が、「怪異への同情や共感をした者には災いが起こる」というのは、昔の怪異譚や怪談の教訓でありお作法であると考えるからです。

 今の時代では語るのがはばかられる教訓ですが、おそらく大昔は距離を取るしかないような存在や感情が今よりも深刻で、それに対する教訓が古来から残る怪異譚のお作法の一つであると考えています。

 作中でも、ダイジンには人間の常識や社会性がなく、関わってはいけない存在であることが解るセリフがいくつもあり、特に草太に思いを寄せる鈴芽にとっては完全に相容れない存在です。

 余談ですが、怪異の望みに従い共に過ごすことを選択する物語でインパクトを覚えた作品が、中田秀夫監督作品「仄暗い水の底から」かなと。

仄暗い水の底から

やっぱり、理由はぼくが「猫が嫌いだから」かな

 まあこれらは、あくまでぼくの解釈で、新海誠監督が意識されたかは解りません。
ぼくのような考え方から見ると、終盤は「ダイジン」をギリギリやり込めた…寝かしつけられたと見えてしまい感動も鈍るかも知れません。
また、最初から最後まで「ダイジン」を疑いの目で見続けるというのは、色々な楽しみを見落としているとも思います。

 …ということで、野暮ったく語ったけど、ここはあえて宮﨑駿監督がジジが喋れなくした理由を真似て「猫が嫌いだから」にしといた方が良いかなあ。

魔女の宅急便、最後にジジが喋らない理由 | Office NaKao

映画『すずめの戸締まり』【行ってきますPV】

 可哀想に思わない考え方を強調するために、この記事では省略していますが、「ダイジン」については様々な設定や描写があり、下記では非常に素晴らしく解説されています。

【全力考察】すずめの戸締まり/不明点や謎を明らかにする6つの考察(※ネタバレあり)

それはそうと今の時代に必要な教訓とも感じる

 怪異譚云々はともかく、現代の特にSNSなどにおいては、距離を取らないと災いを起こす存在を知るのは重要だと思います。
「あらゆる存在と仲良く」というのは、語る側も気持良いですが、思わぬ危機を呼び込むことがあります。
 もちろん、反対に自分がどれほど好意を持っていても相手にとって害をなす存在になる可能性を意識することも大切です。

 そして、それらは直接的に表現するのはあまりに衝撃が強いので、寓話の中で教訓として語るのはとても重要であると感じました。

同情すると憑かれる怪異譚

色々振り返ると、怪異への同情や共感で災いが起こるというのは、子どもの頃に親か近所の大人に強く教わったのだと思い出しました。
車に轢かれた動物の亡骸を見て、友人共々酷く同情した際に語られました。
ちなみに元ネタは下記のようです。

国際日本文化研究センター | 怪異・妖怪伝承データベース

…その他、共感や同情や愛情が裏目に出る怪異譚を調べていますが、なかなか見つからないなあ。

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