小説「リプレイ」読みました

評価:
杉山 高之,ケン・グリムウッド
新潮社

¥ 820

(1990-07)

 ケン・グリムウッドにより1987年にアメリカで出版されたSF小説「リプレイ」を読みました。
43歳(1988年)で突然死を迎え「記憶を持ったまま」18歳(1963年)の時点に遡ることを繰り返すジェフ・ウィンストンを描いた物語です。
 1963年アメリカの描写とジェフの行動にリアリティがあり、60年代から80年代までの移りゆくアメリカの歴史的事件や時代毎のアメリカ人の気風の描写が魅力的でした。
 一般的にSFと評されていますが、個人的には現代ファンタジーという印象が強いです。
 何か不思議な事や気がかりになる事(物語の伏線)を、非日常ながらも科学的な理論で解釈し仮説を交えつつ解き明かす気持ち良さがSFの魅力なのに対して、分からないまま受け入れることがファンタジーの魅力であると考えています。
…余談ですが、不思議な事を日常的な出来事のみで解釈し仮説をすべて証明する気持ち良さがミステリーの魅力であると考えています。
 リプレイでは、物語の最後までジェフの時間遡行する理由は明かされず、またその事よりもその環境でどう生きるか、そして未来が見通せない普通の人生がどれほど大切なのかが描かれているので、これはファンタジーかなあと思いました。
 物語最後のファンタジーから現実に戻るシーンの描写が素晴らしく、読者もジェフと同じように「あの世界で知ったこの世界を愛おしめる心を、この世界で大いに使おう」という気持にさせてもらえました。
 ジャンルはなんであれ素晴らしい作品であることは間違いないです。