同人サークル 07th Expansionによる同人ゲーム原作の夏海ケイによるマンガ「うみねこのなく頃に 散 Episode8」で描かれた真相を中心に Episode1を考えてみます。
うみねこのなく頃に散 マンガ版で全部の謎の答えが描かれてたんですね(ネタバレないはず) | Office NaKao
…上記の記事で、色々書いたのですが、明確な描写を避けた結果、ちょっと解りにくいため、フォローも兼ねて、あえてネタバレありで書いてみました。
漫画版の真相描写を参考に、うみねこのなく頃にの Episode1を考える
Episode1の犯人と共犯者
犯人は「紗音=嘉音」であり、彼/彼女の犯行を支える共犯者には、以下の2つのグループが存在します。
■ Aグループ:「源次、南條、熊沢」
このグループは、紗音の正体(=嘉音との同一人物説)を含む全貌を把握しており、犯行全体に深く関与しています。いわば、物語の“舞台装置”として機能し、裏側の真実を知る数少ない存在です。
■ Bグループ:「絵羽、秀吉」
こちらは、事件の計画や殺人に限定して加担する“限定的共犯者”です。紗音の正体までは知らず、ある目的(生き残り、金蔵の遺産、など)に基づいて部分的に協力していると考えられます。
■ 真里亞の立場:
真里亞は極端なオカルト信仰を持ち、「紗音=ベアトリーチェ」という擬人化された存在を心から信じています。
そのため、紗音が“魔女ベアトリーチェ”であることを前提にした証言を積極的に行い、結果的に紗音にとって都合の良い言動をとることになります。本人は悪意なく、むしろ純粋な信仰によって事件に“利用されている”存在です。
犯行内容
下記が非常に細かくまとめられており、その後の戦人とベアトリーチェによる、赤と青の証言のフォローもされています。
ただ、それらを記載すると、慣れていない人は混乱しそうなので、この記事ではその後に登場する証言を無視してストレートな記述でまとめています。
【高画質版】うみねこのなく頃に EP1 ED 【Bring The Fate】
Episode1は犯人による創作
Episode1は、事件後に発見された「メッセージボトル」による犯人の創作であり、ミステリーとして非常に魅力的な一方で、展開の多くが犯人にとって都合のよいものになっています。
たとえば、「紗音と嘉音が同一人物であり、変装によってすべての人物を欺いていた」というトリックや、共犯者たちが驚くほど都合よく動いてくれる点など、冷静に見ると現実味に欠ける部分が少なくありません。
そのような疑念に対する一種のアンサーとして、Episode7では「実際に何が起こったか」が描かれます。
そこでは、感情や人間関係のもつれを軸にした、より現実的な事件の全体像が示されますが、反面、ミステリーとしてはやや拍子抜けしてしまう展開でもあります。
犯行の意図
犯人は碑文の謎の出題と見立て殺人を行うことで、以上のどれかが起こることを望んだ。
- 碑文の謎を解くか過去の紗音との約束を思い出した戦人に、犯罪計画を告白し裁きを受ける
- 紗音の抱える秘密に気づいた穣治に、犯罪計画を告白し裁きを受ける
- 碑文の謎を解いた者に全てを譲り、犯罪計画を告白し裁きを受ける
- 全ての人間を巻き込んだ自殺を行う
結果、4となった。
原作で触れられる動機は譲治、戦人との関係
紗音=犯人が、碑文の謎を利用した運命任せの挑戦に出た背景には、原作において、譲治や戦人との関係に揺れ動く心理が強調されています。
清く真剣な交際の末に婚約を申し込んでくれた譲治と、かつて自分に想いを告げ、交際を約束してくれた戦人との6年ぶりの再会――その間で揺れる感情が、彼女をあの選択へと導いたのです。
余談ですが、戦人は最後まで紗音との約束をまったく思い出さず、彼女の心に何一つ応えることができませんでした。また譲治も、第一の晩に共犯者である父・秀吉の助言に従ってしまい、紗音の遺体を確認せずに見逃してしまうという失敗を犯しています。
漫画版で触れられる動機は、紗音が譲治との関係に絶望したため
漫画版では、紗音が譲治の求婚を受け入れられない理由が、より明確に描かれています。
彼女は幼い頃の事故により、子どもを産めない体となり、さらに成長に必要な女性ホルモンの分泌が妨げられたことで、女性的な身体に成長することもできませんでした。紗音の本来の肉体は、嘉音のような少年の体型に近く、それを隠しながら譲治と交際していたのです。
加えて、紗音は金蔵の隠し子であり、譲治とは法的にも近親にあたるため、婚姻を結ぶことはできません(戦人とも同様です)。
譲治は、社会的な地位を持つ教育者・絵羽を母に持ち、自身もモラルや形式を重んじる性格で、将来的には家庭を築き、子どもを持つことを望んでいます。そのような彼と結ばれることは、紗音にとって現実的に極めて困難でした。
彼女がその事実を知るシーンは、『うみねこのなく頃に散 Episode8: Twilight of the golden witch(6巻)』で描かれていますが、個人的には「うみねこのなく頃に」全編の中でも、最も強い衝撃を受けた場面でした。
ちなみに次点で強い衝撃を受けたのは、ナイスバディで描写されることの多かった、紗音の体型が偽物だったことです。
余談ですが、紗音やベアトリーチェの身体的特徴については、これまで多くの考察や推理の中で「知っていてもあえて触れない」という暗黙の了解や配慮が重視されてきました。
原作ではその点に関する明確な描写は避けられており、特にEpisode7で描かれる紗音=クレルの心情に触れると、むしろ「そっとしておきたい」と思わせる力があります。
しかし、漫画版ではその身体的な描写が明確に提示された以上、「腫れ物に触るような扱い」を続けることが、かえって話を複雑にし、読解を難しくしてしまうとも感じました。
アニメ版での工夫
アニメ版では、演技への影響を考慮し、紗音を演じた釘宮理恵さんには真相を伏せ、ベアトリーチェ役の大原さやかさんにはすべてを伝えたのだそうです。
とても少年のような体型を隠しているようには思えない紗音の「それらしい」台詞や、戦人に胸を触られそうになっても拒まない描写に、当時はすっかり騙されていました。
ただ、アニメ版の絵コンテには、ベアトリーチェ(そして紗音)の胸の谷間が見える作画を禁じた指示があるなど、作画の中に意外なヒントが隠されていたりします。
上記の戦人に問うベアトリーチェの「私は誰」の答は、
10トンの黄金と、島を吹き飛ばせる900トンの爆薬を所有し、碑文になぞらえた見立て殺人を計画しながら、戦人が6年前の約束を思い出すことをひたすらに願う――
障害と血縁を隠し、穣治との清い交際を続ける“紗音”
ということになります。
真相を知って改めて見ると、作画の演出と大原さやかさんの繊細な演技の素晴らしさが際立ちます。
真の犯人の性格
紗音=嘉音が犯人と考えると、紗音も嘉音も演じていない素の人格が存在することになります。しかしこの人格は漫画版でも詳しく描かれておらず、基本的には紗音とほぼ同じ性格として扱われています。
ただよく考えると、嘉音を演じている時点で、紗音そのままの性格はあり得ませんし、一方でベアトリーチェのように極端な性格とも考えにくいです。Episode7に登場するクレルも、ウィルに対してよそ行きに演じているように見えます。
個人的には、「うみねこのなく頃に散 Episode8: Twilight of the golden witch」(9巻)の終盤で、戦人と対話する紗音の姿こそ、紗音・クレル・ベアトリーチェの特徴を併せ持った素の犯人の人格だと感じました。
「イナンナの見た夢」『うみねこのなく頃に咲 ~猫箱と夢想の交響曲~』|エンターグラム
もしも紗音が戦人に打ち明けていたのなら
原作では、戦人が犯人=紗音と真相について語り合うシーンはありませんが、『うみねこのなく頃に散 Episode8: Twilight of the golden witch』第9巻では、紗音が戦人に真相を打ち明ける描写があります。
安田紗代がベアトリーチェに扮し、戦人と実際に会話を交わすなかで、戦人が声から紗音であることに気づく展開は、「紗音=ベアトリーチェ=安田紗代」という犯人像を理解しやすくしています。
さらに、安田紗代が戦人を励まし奮い立たせるために、真里亞との魔女遊びで作り上げたベアトリーチェの口調や性格を使って接するシーンは、戦人とベアトリーチェの出会いが現実でもあったように感じられ、とても嬉しく思いました。
そして戦人は、真相を打ち明ける安田紗代を理解し、許し、受け入れ、恋人として「さらい」ます。それでもなお、紗代が飛び込み自殺を選んだ後を追いかける展開は、ベアトリーチェと戦人の物語のクライマックスとして非常に感動的でした。
白夢の繭-~Ricordando-il-passato~-Lyrics
別Episodeも見直したい
今回、漫画版の描写を参考に、うみねこのなく頃にの Episode1を振り返りましたが、思いのほか面白く、改めて別Episodeも振り返りたいと思いました。
Episode1では、ベアトリーチェが登場しないため、ベアトリーチェを演じる犯人やベアトリーチェ=ヤス=安田紗代に触れられていないのも心残りです。
うみねこのなく頃に咲 ~猫箱と夢想の交響曲~ ダウンロード版
…これポチったら、しばらく帰って来られなくなりそうなのだが。。。
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